Tech 21 SansAmp Bass Driver DI V1初期型 解析

2022年03月16日 カテゴリー:修理・改造・解析




昔製作したBEHRINGER BDI21は、Tech 21 SansAmp Bass Driver DI(以下BDDI)のクローンだと思われていました。しかし、本当にそうなのか確認されていたわけではありませんでした。そこでBDDI実機を入手して分解・トレースし、BDI21が正確なクローンなのか解明してみることにしました。

BDDIは2016年にV2が発売され、それまでのモデルはV1と呼ばれることがあります。そしてV1の中でスライドスイッチが1個のものは初期型又は前期型、スライドスイッチが3個のものは後期型といわれ区別されます。本ブログでは、それぞれV1初期型、V1後期型、V2というように表記することにします。※上写真のV1初期型は、オリジナルとは違うジャック、LED、スイッチに交換してあります。



<モールドとの闘い>


基板上の黒いモールド部分は、かなり硬く砂のような成分が入っている感触でした。熱には弱いようで、はんだごてを当てると溶けますがにおいがキツいです。熱でコンデンサの値が変化するのを避けたかったので、大きいニッパーでガリガリ削っていきました。端の方はポロっと割れる部分があったのですが、コンデンサの端子部分がはがれて測定不能になるものが出てきてしまい失敗でした。IC周辺はヒートガンを使ってはがしました。

測定不能になったコンデンサの値が気になったため、別のジャンク品を手に入れ、モールドの裏側からやすりで削っていきました。

配線パターンは少し読みにくいです。何とか成功しましたが、この方法でもコンデンサの端子部分がはがれそうになっていました。結局はモールドの裏側からホットエアーを当てて一気にはがす方法がよいかもしれません。後から燃料用アルコールに2週間くらい漬けてみましたが、少しだけ柔らかくなる程度で効果は薄かったです(参考ページ→Bogner Burnleyの修理)。
2025年1月14日追記:Tech 21 XXLのモールド部をホットエアーで剥がしている記事がありました。


ICは表面が削れられた後からモールドされたようで、型番はわかりませんでした。おそらくV1後期型やV2と同じTLC2264でしょう。(裏面の刻印の形式がモールド外についていたTLC2264と同じなので、Texas Instruments製であることは確かだと思います。)



<基板画像・回路図>(KiCadデータ・高解像度画像はGitHubへ)


シルク印字が全くないという独特な基板です。部品番号は不明なので、適当に割り振っています。左上に部品未実装のパッドがありますが、ここにコンデンサが実装されているレアな個体が存在するようで、オークションサイトで出品されていたことがありました。

tech21_sansamp_bass_driver_di_v1_early_schematic
マニュアル記載の「チューブアンプエミュレーション回路」はPRESENCEとDRIVEコントロールがある側です。この回路を通った音と原音がブレンドされた後、トーン回路を通り出力されます。BLENDが0%(原音側)の時PRESENCEが効かないというのは、最初は戸惑うかもしれません。BEHRINGER BDI21との比較については別記事にまとめています。



<V1最初期型>

ネット上で売買されている中古BDDIの画像を見ていると、V1初期型の中で様々な仕様変更が行われていることがわかりました。そして1994年の発売開始から数年の間に製造されたと思われる、最初期型の画像を藤本明良さん(Twitter: @refuge_akira)から提供いただきました。

以下のような特徴があります。
最初期と判断した根拠は、ICの販売開始時期です。TLC2262、TLC2264は、データシートに"FEBRUARY 1997"と記載があるため、1997年に発売されたようです。よってNJM064やTL062が使われている個体は、1994年から1997年の間に製造されたと推測できます。

NJM064やTL062は、TLC2264とは違いRail-to-rail出力ではないので、歪みやすくなっていると考えられます。また、データシート上スルーレートが高く、ノイズが大きめとなっています。ただ、BDDIでは元々のフィルタ回路の特性が特徴的なので、オペアンプの違いによる音質差を聞き取るのは難しいかもしれません。


私が持っている個体では、オペアンプ表面の削りが不十分だったため型番が判別できました。全くオペアンプ表面が削られた様子がないものも出回っていますが、削り忘れなのか削るのをやめたのかは定かではありません。

スイッチは金属板ではめ込むタイプや六角ナットでねじ止めするタイプが使われています。前者のスイッチは、無理やり金属板を曲げて取り外しました。
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交換用にはGarrettaudio千石電商AliExpressで買えるアクチュエータースイッチが使えますが、バネの力がやや強いです。押した時基板が曲がらないように、少しタクトスイッチから離した状態にするか、元々ついている弱いバネを流用するとよいでしょう。基板上のタクトスイッチを交換する場合は、弱いバネの力でも押せるタイプである必要があります(SKHCBFA010はたぶんOK)。思ったより絶妙なバランスで成り立っているスイッチ機構です。